2016年6月2日木曜日

米利上げ局面でのドル円(USD/JPY)の推移




昨年の12月にアメリカの中央銀行である、連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を引き上げました。それに伴い、為替は急激な円高になりましたね。
テレビなどではよく、「アメリカが利上げすると円安になる」とか「これから金利が上がるのだからドルを買おう」みたいな話が出ているのになぜでしょうか?今回は、過去の利上げトレンドの時期と比較して、当時の為替はどうなったのかを見てみたいと思います。




『FRB』『FOMC』とは

アメリカには、『FRB』と呼ばれる組織があります。これは日本でいう『日本銀行』、アメリカの中央銀行にあたります。※下図参照
メンバーは、7人(うち議長1名、副議長1名)の理事で構成されており、その下に位置する12の地区連邦準備銀行とともに、中央銀行の業務を行っています。
そして、そのFRBが年に8回開催する会合が『FOMC』です。このFOMCでは、景気の先行きや物価に対するリスクなどが話し合われ、多数決(投票)によって政策金利(FF金利)が決定します。よくニュースなどで見る「アメリカの利上げ」というのは、この政策金利が上がることです。









政策金利と利上げ(利下げ)

政策金利とは、中央銀行が行う金融市場調整手段の一つです。
一般的に、中央銀行は景気が悪くなると金利を引き下げ景気が良く(加熱気味に)なってくると金利を引き上げます。イメージとしては、以下です。

【景気不調・お金の流れ➡︎
利下げ(中央銀行)➡︎利下げ(住宅ローン等)➡︎消費が増えて景気が良くなる

【景気過熱・お金の流れ⬅︎
利上げ(中央銀行)➡︎利上げ(住宅ローン等)➡︎消費が冷え込み景気が落ち着く

金利が下がれば世の中のお金が増える、金利が上がれば世の中からお金が減るということです。政策金利を調整することで、お金の量も調節して過度なデフレ・過度なインフレを抑制しようとしているのですね。
現在アメリカは、緩やかながらも利上げを進めています。つまり、景気を落ち着かせようとしているんですね。




為替への影響

世界には日本のBOJと呼ばれる日本銀行以外にも、連邦準備制度理事会(FRB)・欧州中央銀行(ECB)・イングランド銀行(BOE)など各国中央銀行が存在して、独自の通貨を発行しています。そして、自国の国内景気を分析して自国の景気のために金利を調整しています。すると、その金利差が為替にも影響してきます。理屈としてはこうです、

例えば、1年間1万円を銀行に預けていたとして、1年後には付利されて

日本の金利(0.1%)→1万10円
アメリカの金利(0.5%)→1万50円

になります。

当然、預けている額が大きくなれば付利される額も増えます。
どうですか?日本円を売ってアメリカドルを買おうと思いますよね?金利が低い通貨は売られ金利が高い通貨は買われ。すると、円の価値は下がって、ドルの価値は上がります。結果として、「アメリカが利上げすると円安になる」となるわけですね。





過去の利上げ局面を見てみる

過去の利上げ局面ではどのような値動きをしていたのでしょうか。
以下は、約36年間(1980年〜2016年)の日米政策金利の推移・各政策を担当したFRB議長たちです。






赤のグラフが、アメリカの政策金利であるFF金利の推移です。
上図を見るとアメリカは、今までに1987年〜、1994〜、1999年〜、2004年〜、の計4回の利上げ局面を経験していますね。

それでは、各局面を詳しく見てみましょう。
以下は、各時期のUSドル/円とFF金利の推移です。



【1987年〜1990年】


【1994年〜1996年】



【1998年〜2001年】



【2003年〜2007年】




どの利上げ局面でも、値幅・期間の違いはあれど、いずれも約1年にわたって円高になっていますね。しかし逆に、いずれの場合も円高一服後には、本格的に円安になっています。これはドルが買われると同時に、金利・リスクの高い新興国通貨(新興国通貨:ブラジルレアル・ロシアルーブル・インドルピー・人民元・南アフリカランドなど)からリスクの低い安全通貨である日本円に避難しているためだと言われています。
これに関しては、以下のブラジルレアル/円のチャート参照です。※ブラジルレアルは例です。他の新興国通貨も概ね同じ動きをしています。


【1998年〜2001年】

【2003年〜2007年】
【2015年〜2016年】


【1987年〜1990年】と【1994年〜1996年】のデータは残念ながら見つけられませんでした、すみません……。おまけに、2004年は分かりにくいですね。少し言い訳がましいですが、2004年はUSドル/円でも値幅が小さい年なので影響が小さかったのだと思います。(2003年にブラジルはBRICsの一角として世界に認められました。他の新興国通貨も軒並み高く、新興国に資金が流入していく年だったのかもしれません。)





まとめ

ここまでのトレンドの特徴をまとめます。

•金利引き上げ直前まで円安。
•金利引き上げ直後から円高。
•円高一服後円安トレンドに変わる。
•金利引き上げ終了・引き下げ局面に転じても円安トレンドは継続。

つまり、文頭で触れている「アメリカが利上げすると円安になる」というのは、『嘘ではないが一方的に円安になるわけではない』ということになります。







v







おまけ

これまでの利上げ局面を見ると、平均して1年2ヶ月かけて21円円高に動いています。そして、最近では一時105.5円まで円は買われました。
個人的な予想ですが、今回の利上げ局面も今までの流れを継承する(している)のではないでしょうか。円高はまだ続くかもしれませんが、「利上げ前の水準(1ドル=123円)から10円以上下落した今、「そろそろ底をつくのでは…?」と、ぼんやり思っています。
世界情勢が不安定になると買われる特殊な通貨なので、これからどうなるかわかりませんが、企業の業績などにも影響するので、引き続き注目していきたいですね。








〜ありがとうございました。よかったら共有もお願いします。〜
Share:

2016年5月17日火曜日

ロシア株に見るロシア経済と原油価格指標




ロシアは、「1日あたりの原油生産量」がアメリカ・サウジアラビアと並んで世界で最も多い国です。さらに、原油価格とロシアの経済は極めて高い相関性があるとも言われています。(例:原油安⇨ロシア経済不調)

そこで今回は、世界的な原油指標(WTI原油・北海ブレント原油)とロシアの株価指数RTS指数を比較し、どのような動きになっているのかまとめてみました。



WTI原油・北海ブレント原油について

WTI原油・北海ブレント原油についてのざっくりとした説明は以下です。
※原油は、石油に含まれるもので、原油を気化することでガソリン・軽油・灯油・重油が醸成されます。これらをまとめて、石油(原油・ガソリン・軽油・灯油・重油)と言います。気化する温度については、ガソリン⇨35〜230度、軽油⇨230〜350度、重油⇨350度以上、という感じです。
※原油の単位は『バレル』といい、1バレル=約160リットルです。


WTI原油・・・北米の原油価格の指標。ニューヨーク・マーカンタイル取引所で取引されている。

北海ブレント原油・・・欧州の原油価格の指標。インターコンチネンタル取引所で取引されている。

これに、ドバイ原油を含めて消費地ごとに世界3大市場が形成されています。この中でWTI・北海ブレントについては特に取引量が多く流動性が高いことから、これらを中心に進めたいと思います。



ロシアの株価指数

任意の国の経済状況をざっくり把握するときには、その国の主要株価指数を見るのが手っ取り早いです。ロシアについては、RTS指数・MICEX指数という2つの株価指数があり、世界ではそれらがロシアの代表的な株価指標とみなされています。

RTS指数・・・モスクワ取引所に上場する大型銘柄(約50銘柄)の時価総額の平均(時価総額加重平均)で割り出される指数。構成銘柄は、3か月ごとに見直されます。※ドル建て

MICEX指数・・・RTS指数をルーブル建てしたもの。※2011年に、モスクワ銀行間通貨取引所(MICEX)がロシア取引システム(RTS)を買収し、2012年「モスクワ証券取引所」に改称されました。


今回は、ドル建てということもあるのでRTS指数を使用します。
そして以下は、RTS指数の構成銘柄・業種・構成比率です。



構成銘柄業種
1
ガスプロム (GAZP) 
石油・ガス
2
ロシア貯蓄銀行 (RUALR、SBER、SBERP)
銀行
3
ルクオイル (LKOH) 
石油・ガス
4
マグニト (MGNT)
小売
5
ノヴァテク (NVTK)
石油・ガス
6
 ノリリスク・ニッケル (GMKN) 
鉱業
7
VTB銀行 (VTBR) 
銀行
8
ロスネフチ (ROSN) 
石油・ガス
9
 スルグトネフテガス (SNGS、SNGSP) 
石油・ガス
10
トランスネフチ (TRNFP)
石油・ガス
11
セヴェルスターリ (CHMF)
鉄鋼
12
マグニトゴルスク・アイアン&
スチール・ワークス (MAGN)
鉄鋼
13
ノボリペツク (NLMK)
鉄鋼
14
 TMK (TRMK)
鉄鋼
15
VSMPOアヴィスマ (VSMO)
鉄鋼
16
 E.ON・ロシア (EONR)
電気
17
フェデラル・グリッド・カンパニー・
ユニファイド (FEES) 
電気
18
ルスギドロ (HYDR) 
電気
19
インターラオ (IRAO)
電気
20
ロセッティ (RSTI)
電気
21
モバイル・テレシステムズ (MTSS) 
情報・通信
22
 ロステレコム (RTKM、RTKMP) 
情報・通信
23
ヤンデックス (YNDX)
情報・通信
24
 メガフォン (MFON) 
情報・通信
25
アクロン (AKRN) 
化学
26
フォスアグロ (PHOR) 
化学
27
ウラルカリー (URKA) 
化学
28
ニシネカムスクネフティケム (NKNC) 
化学
29
ポリメタル・インターナショナル (POLY) 
鉱業
30
アルロサ (ALRS)
鉱業
31
 メケル (MTLR) 
鉱業
32
 バシネフチ (BANE、BANEP) 
石油・ガス
33
タトネフチ (TATN、TATNP)
石油・ガス
34
Mビデオ (MVID) 
小売
35
 DIXYグループ (DIXY)
小売
36
LSRグループ (LSRG) 
不動産
37
PIKグループ (PIKK) 
不動産
38
AFKシステマ (AFKS) 
コングロマリット
39
チェルキゾボ (GCHE)
食料品
40
ファームスタンダード (PHST) 
医薬
41
モスクワ証券取引所 (MOEX) 
金融
42
アエロフロート・ロシア航空 (AFLT)
空運
43
モストットレスト (MSTT)
建設
44
 ロスアグロ (AGRO)
農林

(石油・ガスを、鉄鋼を、鉱業をオレンジで表示しています。)




構成銘柄上位には、『石油・ガス』や『鉱業』など天然資源に関係する銘柄が並びます。構成比率を見ても、天然資源価格で容易に左右する指数であることがわかりますね。(ロシアは、原油の生産量は多いが消費量はそこまで多くありません。よって、ロシアの経済が原油価格に影響するというよりも世界的な原油需給の影響がロシアの経済に影響するという側面が強いです。)



長期チャート(1980〜2016)

ソビエト社会主義共和国連邦時代から現在のロシア連邦に至るまでの最高指導者、および各指数の節目となる時期の出来事を長期チャートでまとめてみました。

1980/1〜1997/12



1998/1〜2016/4



2000年(プーチン氏1期目)からの伸び、翻ってリーマンショックとクリミア侵攻後の下落がすごいですよね…。

2000年以降の経済成長は、原油高による恩恵が大きいと思います。しかし、プーチン氏は「強いロシア」の再建を目標とし、フラット・タックス制の導入・法人税や消費税の引き下げなどの税制改革を行い、ロシア経済は活性化しました。
今なお衰えないプーチン氏の人気には、財政危機だったエリツィン時代には戻りたくないという民意やこれからの期待感が表れているのだと思います。







おまけ(ガソリン小売価格)

原油価格とロシア経済の関係をグラフにしてみましたが、おそらくほとんどの方の実生活に何の関係もない話だったと思います。
そこで、石油情報センター1987年以降のガソリン小売価格を長期チャートにしてみました。ガソリンスタンドなどで給油する際に、レギュラーが上がっていたら「ロシアが調子いいんだな〜」とこの記事を思い出してください。(ガソリンは、原油ほど価格が上下しません。これは固定で1リットルあたり55円の税金がかかっていたり、為替差があるためです。








〜ありがとうございました。よかったら共有もお願いします。〜
    




Share:

いつもありがとうございます。よかったら、共有もお願いします。